「このままいったら、あんたはね、もう二度とまともな恋人はできない。もちろん子供も産めないね。孫の顔を見せないまま親を死なせるんだよ。親不孝もんだね」 そこまで言うと、女は五十五歳とは思えない俊敏さでずずずいっと距離をつめてきた。「わたしはね、忠告にきたんだよ。あんたは今年、大きな間違いを犯す。その間違いさえ回避すれば、未来は変わるかもしれない。わたしのことを信じて、真面目に話を聞くつもり、ある?」 わたしは即座にうなずいた。首がちぎれてふっとびそうなほど何度もうなずいた。 小説家としてデビューしたものの、食えないのでデパートで契約社員として働いている「私」。将来に不安を抱える「私」の前に、五十五歳の自分が現れてこう告げた。あんたはこのままだと一生独身だよ、と―—。鋭い人間観察がブラックな笑いを誘う、赤裸々に綴られた「私」小説。