『いらっしゃいまし。お珍らしい雨で御座いますナアどうも……こうもダシヌケに降り出されちゃ敵かないません。 いつも御贔屓になりまして……ま……おかけ下さいまし。一服お付けなすって……ハハア。傘をお持ちにならなかった。ヘヘ、どうぞ御ゆっくり……そのうち明るくなりましょう。』
とある東京の古本屋。夏もあらかた過ぎ、季節はずれの激しい夕立の中、ずぶ濡れになったお客がひとり。
店の主人は古本屋稼業の日常などの四方山話を語り始めた。 話はひょんなことから、医専の生徒が持ち込んだ一六二六年に英国で出版された筆写本。曰くつきの"聖書"の話に。
世界中にたった一冊しかないと噂に聞いたデュッコ・シュレーカーのBOOK OF DEVIL PRAYER(外道祈祷書)『悪魔の聖書』だった。
豪雨の中の鄙びた古本屋。店の中にはずぶ濡れの大学教授と、怪しげな店主の二人きり。
物語は思わぬ方向に進み・・・。
CONTENTS 一:季節はずれの夕立の中、一人の大学教授がずぶ濡れになって訪れた店は鄙びた町の古本屋。話好きな店主が語り始めた。珍本・奇本と、それらを一風変わった方法で万引きするお客の様子。
二:夏休みに大学生が持ち込んだ古い聖書は、この世に一冊しかない『悪魔の聖書』だった。一見すると年代物ではあるが普通の聖書。しかし、その実、読み進めるうちにその聖書はとんでもない代物であることが判り・・・。
三:内容の恐ろしさに慌てふためく大学教授。落ち着きをなくし気が動転した顧客に、店主が打ち明けた『悪魔の聖書』の真相とは・・・。
編集者からひと言 一冊の曰くつき聖書をめぐり、店主の独り語りで綴られた本作は、明治・大正の作家、夢野久作によって書かれた禍々しく、時にコミカルな不思議な世界である。
日常の中に非日常的世界の入り口を匂わす世界観は、江戸川乱歩、HP・ラヴ・クラフトなどにも通じ、倒錯した世界に踏み込んでしまいそうになる醸成された雰囲気がある。
SF作家、探偵小説家、幻想文学作家として人気を博した夢野久作の世界観をラジオドラマ風に再現しました。