■屋根裏の散歩者 親の脛をかじりながら生活を送る三郎。そんな彼が楽しみを見出したのは、屋根裏部屋の散歩だった。 郷田三郎は、学校を出てからも親からの仕送りで暮らしている。どの仕事も、どんな娯楽も面白いとは思えずやめてしまい、下宿も転々としている有様だ。 そんな中、今度移った東栄館という新築の下宿屋の2階で、彼はある楽しみを見出した。 それが、『屋根裏の散歩』だった。 押し入れの天井板から上って屋根裏伝いに、2階に住む二十人もの下宿人の意外な姿を盗み見ることができる。彼らの知られざる生活や複雑な人間関係を覗く事が、この上ない快楽となった。ある日、虫が好かなかった遠藤が大口をあけて寝ているのを発見した彼は、あるとてつもない「犯罪(殺意)」に夢想して興奮する。 やがてそれを実行に移すのだが・・・。
■人間椅子 椅子を通して繰り広げられる女流作家と「私」の甘美な世界と衝撃の結末。 ある日、洋館に住む美し い閨秀作家の佳子のもとに、一通の封書が届いた。異常で気味悪いその手紙には、おぞましいある椅子職人の告白が綴られていたのだった。 彼は、自分の作った椅子を愛すがあまり、いっときも傍を離れたくないという思いから、特別注文として作った外国人ホテル用の大きな肘掛椅子に自らを忍び込ませたというのである。 椅子の皮一枚を隔てて触れる人間の肌の感触の、なんと生々しく魅力的な事か! 異国のうら若い乙女や欧州の要人の肉体の感触に陶酔し、或いは、ダンサーの見事な肉体美に敬虔な気持ちさえ抱きながら、彼の欲求は、自分と同じ日本人のそれへと沸き立っていく。。。 やがて、その椅子は、数奇な運命の元、ある日本人の立派な洋館に引き取られていったのだが……。