郷田三郎はこの世の全てに面白さを感じることが無く退屈しきっていた。
そんな郷田は友人の紹介で素人探偵の明智小五郎と知り合い、「犯罪」に興味を持つようになる。
そして、意味もなく人を尾行してみたり、労働者や学生などに変装してみたりしたが、
殊更に女装が気に入って、女の姿できわどい悪戯をするなど、犯罪として捕まることのない
「犯罪の真似事」を楽しみとするようになった。
だが、3カ月ほど経ち「犯罪の真似事」にも飽きてしまった頃、郷田は新築の下宿屋・東栄館に引っ越した。
ある日、偶然郷田は押し入れの天井板を外して屋根裏に入れることに気付き、
各部屋の仕切りのない屋根裏からこっそり住人たちの私生活を覗き見ることが新たな楽しみとなった。
この「屋根裏の散歩」はいつの間にか忘れかけていた郷田の犯罪嗜好癖をくすぐるのに十分なものであった。
ある日、郷田は一番虫の好かない歯科助手の遠藤の部屋の天井に節穴が開いているのを見つけ、
この節穴から遠藤の口にモルヒネを垂らして毒殺することを思い立ったのであった……
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。
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