ろくろ首には、大きく分けると、首が伸びるものと、
首が抜け頭部が自由に飛行するものの2種が存在します。
さて、小泉八雲の『ろくろ首』に登場するのは……。
なんとも不気味で不思議な話です。
行脚の僧・回龍は折があって、甲斐の国を訪れた。
ある夕方のこと、その国の山間を旅しているうちに
村から数里離れた、はなはだ淋しい所で暗くなってしまった。
そして、ある木こりの家に宿らせてもらうことになる。
小屋には木こりのほかに4人の男女がいた。
夜、眠りにつく前、回龍は外に出て水を飲もうと思い、
そっと襖を開けた。そして行燈のあかりで見た横臥する5人の姿…。
いずれも頭がなかった。
「捜神記」に、もし首のない胴だけのろくろ首を見つけて、
その胴を別のところに移しておけば、首は決して再びもとの
胴へは帰らない、と書いてあります。それからさらにその書物には、
首が帰ってきて、胴が移してあることをさとれば、その首 は毬のように
はねかえりながら三度地を打って、喘ぎながらやがて死ぬ、とある。
さて、頭がない5人の姿を見た回龍が、この後とった行動とは…!?
シンプルで美しい八雲の文章表現が冴え渡る、
今なお鮮度を失わない、まさに傑作といえる怪談作品です!
小泉八雲(こいずみ・やくも)
小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、米国でジャーナリストとして活躍した後、
1890年、東洋の神秘に興味を持ち来日。同年、英語教師として松江中学に赴任。
小泉セツと結婚。熊本第五髙等中学校(熊本大学の前身校。校長は嘉納治五郎)へ転任。
1896年、日本に帰化。「小泉八雲」と改名する。以来、東京帝国大学(夏目漱石の前任)、
早稲田大学で英文学を講じながら『怪談』等の英文による名作を執筆する。1904年、米国で、
日本の古典や民話、怪談・伝承の類などを取材編集した創作短編集『怪談』を刊行。