【小学館の名作文芸朗読】
夜明けの小さな町々は、ある一つの家を除いて静まり返っている。政枝の家は、わずか14歳である彼女が左手首を剃刀で切って自殺を図ったため、混乱していた。姉の静子は医者と叔母の多可子を呼び、医者が駆けつけて手当てを試みるが、政枝は必死に拒む。政枝は自らが抱えている結核を死病と信じており、死の決意を変えるのは困難だった。多可子は政枝に手当を受けさせようとするが、「何故、生きなければならないの。そのわけを云って――。それが判るまで手当受けません」と言われ、答えられなくなってしまう。