【小学館の名作文芸朗読】
病院の静寂な朝を観察した随筆。朝早く目覚めると周囲は静かで、時計の音と看護婦の寝息のみが聞こえる。五時頃になると遠い廊下から不思議な物音が始まり、次第に近づく。鉄管をたたく音や水の音、蒸気の噴出する音などが病室に活気をもたらし、暖房の熱が広がると精神と体が穏やかになる。窓外では雀のさえずりが夜明けを告げ、この心地よい感覚のなかで幼少期の田舎の光景が浮かび、眠りに落ちていく。退院するまでこの音の正体を確かめられなかったが、その神秘的な印象は病気の経過と類似点があるように感じた。
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