【小学館の名作文芸朗読】
五十九歳で亡くなった母について綴ったエッセイ。母の臨終に最後の十五分だけ立ち会えた宮本は、父を支えるために涙を抑えていたことを振り返る。母は糖尿病を患い、膵臓の膿腫を経て肺エソで亡くなった。華族女学校に通った母は、官吏の父をもち、米沢の士族の家に嫁ぎ、姑や小姑との複雑な関係を経験。夫が外国留学中には三人の子どもを育て、子どもの将来のために家を抵当に入れて海外留学させるなど大きな犠牲を払った。しかし子ども九人のうち六人は亡くなってしまった。母の一生は明治から昭和にかけての中流階級の女性としての苦悩と希望を映し出しているようだった。