日本国軍の敗戦の原因は、その組織構造にあることを解き明かした名著「失敗の本質」。日本軍が抱えていた組織構造の問題は、今の日本経済の低迷につながる理由でもあります。「失敗の本質」の概要を解説するととも に、おすすめのビジネス書オーディオブックをご紹介します。
「失敗の本質」を聴けば、現在の日本低迷の原因が分かる?
1984年の刊行以来、いまだに多くの人に読み継がれている名著「失敗の本質」。第二次世界大戦において、日本国軍が敗戦した原因をつまびらかに解き明かした本となっています。なぜ敗戦の理由を解き明かした本が、今なお読まれ続けているのか。それは、敗戦の理由は日本国軍の組織構造にあり、それがそのまま今日の日本経済の低迷に繋がっているからです。今回は、「失敗の本質」の概要をご紹介するとともに、組織論やマネジメントにフォーカスを当てたオーディオブックを合わせて解説します。
なぜ日本の組織は空気に左右されるのか?組織の病理を解き明かす
本書は、第二次世界大戦において日本国軍がなぜ敗戦したのか、その理由を解説した本となっています。1984年に刊行され、なかば古典ともいえる本書は、今もなお読み継がれており、多数の解説本も出版されています。
本書は、軍事的な戦略における失敗を、くわしく解説しています。なぜ、軍事的内容を多く含む本書が支持され続けているのか。それは、戦争における失敗の理由が日本軍の組織構造にあり、それがそのまま現在の日本経済の低迷など、様々な問題にリンクしているからです。
本書のサブタイトルには“日本軍の組織論的研究”とあります。つまり、本書は
軍事的な戦略を解説することを通して、日本の組織が抱え続けている病理を明らかにしているのです。
本書では、機能不全に陥った組織が正常に動かなく理由を挙げています。その理由の1つに、
大きな声を上げる人の間違った理論が通ってしまう、ということがあります。大戦に大敗を喫した原因の一つとして、戦略のロジックがなかったということが挙げられています。敵国は、自身の戦力と相手国の戦力を比較分析した上で戦略を練っていましたが、日本国においては頑張ればなんとかなる、という精神論が持ち出され、実際にその意見が通ってしまうことが多かったのです。
日本が敗戦に向かうきっかけとなったのが、関東軍の暴走です。大陸政策の先兵となった関東軍が、大本営の意見を聞かずに強硬手段に踏み切ったことから、歯車が狂い始めます。1939年に、満州国とモンゴルの国境ノモンハン付近で起こった旧ソ連軍との衝突にて、関東軍は大敗を喫することになります。本書には、本件の分析に関して、大本営と意見が対立すると
“つねに積極策を主張する幕僚が向こう息荒く慎重論を押し切り、上司もこれを許したことが失敗の大きな原因であった”とあります。
重要な会議の場などで、どう考えても無理なプロジェクトを、大きな声を上げて押し切ろうとする役員を見たことはないでしょうか。声が大きな人物のロジックのない主張が通る、というのは、現在の日本組織にもつながる現象でしょう。
さらにこのノモンハン事件において、日本軍を制圧した司令官ジェーコフは
“日本軍の下士官は頑強で勇敢であり、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが、高級将校は無能である”と評価していたとあります。
現場は優秀だけれども、トップが無能というのは、現在にも通じる組織に蔓延る病理なのではないでしょうか。
本書はこの他にも、
明確な指示 をせずに空気を読んで間違った決定がなされるケーズや、現場の第一線で戦う人たちの声が届かず、
現場の事情を知らない指揮官によって、古い戦略が採用され続けるなど、様々な組織不全のケースが解説されています。ビジネスパーソンであれば、自社の実情と重ねあわせて、共感出来てしまうポイントも多いのではないでしょうか。
このように、組織論の示唆となる本ではありますが、同時に難解だと言われることも多いです。本書では、ノモンハン事件にはじまり、ミッドウェー作戦やインパール作戦など、6つの戦いにおける詳細な戦況分析を行っており、合わせてそこから得られる教訓を綴っています。戦いにおける戦況分析は、なかなか一般人には読み進めるには難解なところも多いのです。本で読むよりも、耳から聴いた方が内容の理解度が高まるため、オーディオブックにおすすめの本です。さらに、本書の内容を解説した解説本も出版されいるので、取っ付きにくいと思った人は、下記の解説本を聴いてみるのも良いでしょう。
- 著者:戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- ナレーター:市村徹
- 再生時間:12:37:57
経営の神様、稲盛和夫氏が語る。強い組織の作り方
上記でご紹介した「失敗の本質」は、敗戦を通して組織にひそむ病理を解き明かし、組織が機能不全に陥る理由を解説しています。それでは、強い会社はどのように作れば良いのか、そのヒントになる本がこちらになります。
著者の稲盛和夫氏は、一代で京セラや第二電電(現KDDI)を立ち上げた名経営者です。組織として機能不全に陥っていた日本航空(JAL)を、再建させたことでも知られています。いわば強い組織を作るプロなのです。
本書の中では、リーダーとしての判断力の磨き方や、社員のモチベーションを高める方法、そして危機が訪れたときにどう対応するべきかという、組織のリーダーに不可欠な談話が語られていきます。
例えば、社長というのは物事を決める最終決定者であると言います。何をもって判断すれば良いかといえば、そこには心の中の座標軸が必要だと語られます。その座標軸については、次のように話します。“その原理原則は何かというと、
正、不正の判断基準、または善悪の判断基準、公平、公正、誠実、誠意、愛情、正義、博愛、正直、素直等々のベーシックな言葉 で表せる倫理観です”
つまり、リーダーの最終決定に最も必要なものは、倫理観ということなのです。倫理観を持ち合わせていなければ、己の欲望が物事の判断基準になってしまうと言います。
このように、リーダーとしての理想論を説きながら、実際はどう行動するべきかという、現実的なメソッドも合わせて解説しています。例えば、
最終決定者である経営者は常に孤独になりがちなので、腹を割って話せる友人を作っておくべきである、というコメントもあります。
本書は、問答形式が取られています。稲盛氏が代表を務めた経営塾、盛和会では、参加者からの質問に塾長である稲盛氏が自ら答えていました。本書では、この問答を再現した形になっており、とても聴きやすい内容です。「失敗の本質」を聴いて、では強い組織を作るにはどうしたら良いのか、という疑問が湧いた人に、是非おすすめしたい本です。また、事業運営に悩む中小企業の経営者にもピッタリの内容となっています。
- 著者:稲盛和夫
- ナレーター:茶川亜郎
- 再生時間:05:55:45
ミドルマネージャー(中間管理職)として、活躍するための指南書
本書は、組織の中で活躍する
ミドルマネージャー(中間管理職)に向けて、マネージャーとしてどのようにスキルを身に着けて仕事に取り組むべきかを解説した本となっています。
マネージャーになったものの、上司と部下との板挟みになってしまったり、マネージメントと両立して自身のタスクをこなすのが大変である、という人も多いと思います。
本書はそういったミドルマネージャーに向けて、身に着けるべき3つの力を紹介しています。
1つめはスキルー組織で成果を出す力、2つめはウェイー仕事に対する想いの力、3つめはギャップー周囲との考えの違いを乗り越える力です。これらの力を身に着けていくにはどう自己変革をするべきかが、詳細に解説されています。そして予想外のことが起こるなど、紆余曲折を迎えた際にはどう対応するべきかも合わせて、語られています。
後半では、実際にミドルマネージャーとして活躍する7名の事例が紹介されています。ただ、体系的な解説に留まることなく、豊富な事例があることで、ミドルマネージャーたちが困難にぶち当たったとき、どう切り抜け、どう成長したのかが具体的に学べる構成になっています。
組織の中核をになうのは、部下をマネージしながら同時に事業にもコミットをするミドルマネージャーたちです。これからミドルマネージャーになる、あるいは成りたてだという人に、是非おすすめしたい一冊です。
- 著者:グロービス経営大学院(著),田久保 善彦(監修)
- ナレーター:市村徹
- 再生時間:07:52:47
最高のリーダーシップとは、ありのままでいること?
本書では、これからの時代を生きるために必要なリーダーシップの身に着け方を解説した本です。
著者のスティーヴン・マーフィ重松氏は、スタンフォード大の医学部で教鞭を取っており、脳科学に裏打ちされたリーダーシップ論を、体系的に解説しています。著者は
リーダーシップは管理職のみならず誰しもに必要なものであると説きます。これからの変化が激しい時代においては、個々人が自分の能力を高めてパフォーマンスを引き出す必要があります。個人の成長を促し、組織の成果を引き出すのがリーダーシップであれば、誰しもが自分のリーダーである、というわけです。本書ではリーダーシップとは生き方であり、働き方であると説いています。
さらに、本書では組織を束ねるリーダーのイメージを覆しています。
リーダーは強いリーダーであ る必要はない、というのです。目指すべきリーダーの形として、アサーティブ・リーダーを挙げています。アサーティブとは、自己主張しつつも相手の意見も尊重するコミュニケーション方法です。つまり、一方方向からメンバーを引っ張るのではなくて、上手く自分を自己開示しながら、メンバーとコミュニケーションを取っていくことが大切なのです。
このアサーティブ・リーダーになるためには、4つの必要な要素があると言います。1つめは、オーセンティックリーダーシップ(本質的なリーダーシップ)、2つめはサーバントリーダーシップ(支援するリーダーシップ)、3つめはトランスフォーマティブリーダーシップ(変容をもたらすリーダーシップ)、4つめがクロスボーダーリーダーシップ(壁を越えるリーダーシップ)です。
1つめのオーセンティックリーダーシップ(本質的なリーダーシップ)を説明すると、
ありのままの自己を周囲に開示して、飾らずに人と接することが出来るリーダーシップです。一般的なリーダーシップからは、ほど遠いイメージに感じられるのではないでしょうか。
さらに、このリーダーシップを身に着けるための4つのステップも紹介されています。
“弱さ(ヴァルナビリティ)を認める
役割性格を超える
人と比べない
自分の生涯の大きな目的を見つける
超・集中状態になる”
つまりは、自分をよく知った上で、ありのままの姿を周りにさらけ出し、人生の大きな目的に集中することが必要というわけです。
このように、本書ではアサーティブ・リーダーになるための4つの要素をいかに 身に着けるべきかが、詳細に解説されていきます。
管理職のみならず、自己の能力を高めて組織で成果を出したいと思う人に、是非聴いてほしい本となっています。
- 著者:スティーヴン・マーフィ重松
- ナレーター:和村康市
- 再生時間:09:42:46
「失敗の本質」ほか、おすすめのビジネス書オーディオブック
今回は「失敗の本質」ほか、組織論やマネジメントのヒントとなるビジネス書4選を紹介しました。
今回ご紹介した本において共通して語られているのは、組織のトップで決まるということです。ミドルマネジメントをするビジネスパーソンにとって、視座を高くして経営者目線で組織を眺めることで、仕事への取り組み方や組織に対する参画の仕方が変わってくるのではないでしょうか。今回ご紹介したオーディオブックを聴いて、ビジネスパーソンにとって必要不可欠な組織の中で活躍する力を身につけましょう。
また、今回ご紹介した以外にも、多数のビジネス書オーディオブックがあります。気になる人は、下記もチェックしてみましょう。
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